2024年、さらに注目の「短鎖脂肪酸」って、何?
この数年、何かと話題に上る「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」。美容、医療、ダイエットなど様々なところで耳にした方も多いはず。では、短鎖脂肪酸には、どんな働きがあるのだろうか? 改めて、短鎖脂肪酸の働きについてまとめてみた。
~はじめに~
短鎖脂肪酸をひと言で説明すると、“身体の環境問題を解決できる、最重要な物質”。身体の環境問題とは、主に腸内環境の劣化や汚染などの環境破壊によって引き起こされるさまざまなトラブルのことである。
たとえば美容なら、肌のくすみや血色の悪さ。医療やダイエットの領域では、腸内環境の悪化によって、さまざまな疾病をはじめ、便秘や肥満が引き起こされることが近年の研究で明らかになっている。過労や体質、単なる偏食や過食と思われてきたことが、実は腸に象徴される身体の環境問題として捉えられるようになってきたのだ。
1. 短鎖脂肪酸の中でも注目の存在が、酪酸である
この身体の環境破壊を止める最重要な物質が、腸内細菌叢が作り出す酪酸や酢酸、プロピオン酸といった「短鎖脂肪酸」と呼ばれる代謝産物だ。その数40兆個、1000種類とも言われる腸内細菌は、身体の多様な環境を整える有用な(時に悪影響を及ぼす)化学物質を日夜生み出している。
短鎖脂肪酸のうちの酢酸は、肝臓や筋肉、腎臓などでエネルギー源や脂肪を合成する材料になることが知られている。プロピオン酸も、肝臓での脂肪の合成の材料になるほか、脂肪や筋肉から糖を生み出す「糖新生」と呼ばれるメカニズムにも関与している。
注目すべきは、酪酸菌によって生み出される酪酸である。酪酸は、大腸の上皮細胞のエネルギー源として、多様な腸内細菌叢を育む“腸そのもの”を整えるために不可欠な存在と言われている。近年、研究者のみならず、酪酸への関心が高まっているのだ。
2. 身体の環境破壊を食い止める切り札=「ルミナコイド」
いくら清潔で静かな環境に暮らしていても、身体の環境破壊が徐々に進み、私たちを蝕んでいるかもしれない……。その最大の原因は、多様性とバランスを失った腸内細菌叢と言われている。現代社会では、抗生剤の多用、過剰なストレスや細菌汚染、食中毒、過度な偏食、過食や過飲などによって、本来の腸内細菌叢の多様性とバランスが失われつつあるという。
本来の豊かな腸内細菌叢に欠かせないのが、腸内細菌のエサ。食物繊維やレジスタントスターチ、オリゴ糖、イヌリンといった、最近よく目にする“腸活”栄養素たちだ。カロリーがゼロもしくは、超低カロリーのため、以前は栄養的な価値がないと考えられてきたが、近年その評価がますます高まっている。
こうした“腸活”栄養素は、個別に語られることが多いが、実は、バランス良くどれも摂取する必要があるという。こうした考え方に基づき、最近では“腸活”栄養素を「ルミナコイド」という総称で呼ぶようになってきた(最近目にする「発酵性食物繊維」も、実はルミナコイドの俗称である)。
3. ルミナコイドが教えてくれる、身体を捉える大きな視点
さまざまな不調や病気といった、身体の環境問題の解決の決め手として、短鎖脂肪酸への注目が集まっている。その短鎖脂肪酸を生み出すのは、多様な腸内細菌叢の存在だ。そして多様でバランスのとれた腸内細菌叢を育むには、“腸活”栄養素であるルミナコイドが不可欠である。
つまり、ルミナコイドによって、誰もが知る乳酸菌やビフィズス菌といった有用菌も、その機能を発揮することが可能なのだ。ひとつの細菌だけに注目するのではなく、より大きな視点で身体を捉える必要を、ルミナコイドが教えてくれているのである。
翻って、私たちの暮らしの環境問題である公害や汚染物質への解決策のひとつとしても、多様な生態系を取り戻す努力が、世界中で叫ばれている。多様な生態系のために不可欠なのも、まさに豊かな森や海洋環境だ。身体の内側も、そして外側の世界も、決して不可分ではなく、むしろコインの裏と表の関係に過ぎない。
記事監修
皮膚科医、内科医、梅花大学客員教授。
都内2カ所のクリニック勤務の傍ら、医療の観点から美容と健康を追求し、
美しく生きるための啓蒙活動を行う「キレイをつくる医師」として、
医療現場だけでなく、さまざまなメディアでも活躍している。
構成・文/大田原 透