“腸内細菌叢の乱”が招く、慢性腎臓病
~はじめに~
「チョウジン連関」という医学用語、ご存知の方も少なくないはず。もちろんチョウジンは、“超人”ではなく“腸腎”の連関。腸と腎臓は、文字通り密接な関連を持つ。例えば最近話題の酪酸や酢酸、プロピオン酸といった「短鎖脂肪酸」は、腸内の細菌叢で作られ、(なかでも酪酸は)腎臓でエネルギーのもとや脂肪を合成する材料となる。
慢性腎臓病(CKD)でも、腸内環境の乱れの結果、「短鎖脂肪酸」の量が減ることが知られている。むくみやだるさ、尿量の大きな変化を伴う慢性腎臓病は、生活習慣病との関連が深いといわれている。しかも、心疾患に大きな影響を及ぼすため、軽視できない病気のひとつなのだ。
上記のように、慢性腎臓病は自覚症状が乏しいため、血液検査からの推定値でチェックするしかない。さらにやっかいなことに、慢性腎臓病によって短鎖脂肪酸の量が減少することで、腸の上皮細胞のバリア機能などが低下してしまう。その結果、腸を介した慢性炎症が、腎臓だけでなく全身に悪影響を及ぼすともいわれている。
「腸腎連関」が“乱”と“病”を複雑にする
ご存知の通り腎臓は、排毒機能を持つ臓器である。しかも、腎臓によって排出される毒素(尿毒素)の多くには、腸内細菌叢が作った代謝物が含まれている。しかし、ここで誤らないで欲しいのは、尿毒素が必ずしも“毒”だけではない機能も持つという点だ。
というのも、正常なレベルの尿毒素は、腸管保護や抗炎症のみならず、腸内環境の恒常性の維持に役立つことが示唆されているのだ。問題なのは、長年にわたる生活習慣や腎臓のトラブルによる「腸内細菌叢の乱」であって、腸内細菌叢そのものではない。
残念ながら慢性腎臓病の治療は、悪化を防ぐ以外の手立てがない。しかも慢性腎臓病の患者は、高カリウム血症を防ぐために、野菜や果物などの摂取を控える必要がある。本来は、多様でバランスが取れた腸内細菌叢を取り戻すべく、短鎖脂肪酸が豊富な状態にしたいのに、腸内細菌叢のエサとなる食物繊維が豊富な野菜や果物を控えざるを得ないのだ。
慢性腎臓病の重症度 分類表
慢性腎臓病の領域で注目される、ルミナコイド
慢性腎臓病は、過剰な尿毒素の影響や野菜や果物の摂取制限など、腸内環境のデフレスパイラルを導くリスクだらけの病といえる。そんななかで注目を浴びるのが、腸内環境の多様性とバランスに寄与する「ルミナコイド」だ。
ルミナコイドは、いわゆる“腸活”に役立つ、食物繊維やレジスタントスターチ、オリゴ糖、イヌリンといった腸内細菌叢のエサとなる栄養素の総称である。「発酵性食物繊維」と表記されることもあるので、ご存知の方も少なくないだろう(ちなみに、この“発酵性”は、腸内細菌が分解⦅=発酵⦆可能な食物繊維たちを意味し、いわゆる発酵食品ではない)。
私たちが生きる現代社会では、抗生剤の多用、過剰なストレスや細菌汚染、食中毒、過度な偏食、過食や過飲など、本来の腸内細菌叢の多様性とバランスを失いかねないリスクに溢れている。
慢性腎臓病は、腸内細菌叢が発するアラート
普段の食物では、大人の腸内細菌叢は簡単には変化しないとされているが、上記のようなリスクによって、腸内細菌叢の多様性とバランスがいったん崩れてしまうと、日々の食事からも強い影響を受けてしまうという。
肌のトラブルやお通じという表面だけで“腸活”を捉えるのではなく、もっと大きな視点=身体の環境問題として腸内環境を捉えることが、今こそ求められている。慢性腎臓病も、腸内細菌叢の多様性とバランスの大切さを示す、身体が発するアラートのひとつなのだ。
私たちの身体を守る浄化装置である腎臓。ルミナコイドによって、腎臓の働きをこれ以上悪化させず、多様でバランスの取れた腸内環境に少しでも近づける可能性が、さまざまな領域で注目されているのである。
記事監修
皮膚科医、内科医、梅花大学客員教授。
都内2カ所のクリニック勤務の傍ら、医療の観点から美容と健康を追求し、
美しく生きるための啓蒙活動を行う「キレイをつくる医師」として、
医療現場だけでなく、さまざまなメディアでも活躍している。
構成・文/大田原 透